// Whole_World_Is_For_You




広い部屋の隅にぽつんとたたずむ、小柄な子ども。
あれは、小さい頃の私だ。
昔はいつも、家にひとりだった。

何も分かっていなくて。
何か、考える材料すらなくて。
何もせずに、ただ日々を生きて。

まさに、抜け殻のような幼少期だった。



それが一斉に変貌したのは、初めて発作を起こして、倒れたとき。

痛みを知った。苦しみを知った。
思い通りに呼吸のできない恐怖。
すぐそばまで迫ってきた死への恐怖を感じた。

――そしてそのとき、

「大丈夫か? あぁ、意識はあるな」

そうっと覗き込んできた人に額の汗を拭われて。
人の優しさと温かさを、私はそのとき初めて知った。

進歩した現代医療は、私の寿命を日付単位まできっちりと予測した。


抗えない運命でした。
根拠のない使命感だけが、いつも、私の中にはっきりとありました。
それは少しは哀しかった。
けれど。

やりたいことがあるって、それができることって、すごいことだと思うから。


精一杯の感謝を、貴方へ。

私はここで、お別れだけど――
これから貴方の生きる世界が、少しでも素敵なものになることを祈っています。
私は、できるかぎりの努力をしたつもりです。

微力でしかないけれど、役に立ててたら……いいな。

平和な世界を、貴方へ。



うん。

貴方に会えて、良かった。



SF目次

SFトップに戻る  WMトップに戻る