12.




『あー! ちょーっと油断したとき、ゼム兄ちゃんに切られた傷が痛いよう』
ニックがシリカの近くで喚きだす。
『まったくゼムったら喧嘩っぱやいんだから。見せてニック』
『お、俺が悪いのか?』
ゼムが慌てる。
ニックがシリカに傷を見せる。シリカは魔法で治した。
エンドが気付き、ニックが驚く。
『シリカねーちゃん魔法使えるの?』
『うん、ちょっとだけだけどね』
謙虚に、でも少し得意気にシリカが微笑んだ。
『すっごいなー!』
素直に関心するニック。
『いいからいい加減離れろ』
ゼムがニックの首根っこを引っつかんだ。
『なんだよ兄ちゃん……嫉妬か』
『ばっ、ちげーよ!』
なんだかんだみな着替えおわり、部屋に集まる。
部屋には細長い大きなテーブルがあり、椅子が3つずつ並んでいる。
木目が美しいテーブルの上には、豪華な料理が並んでいる。
夕食が始まった。
『――ってことは、あなたたちは帝国に反発するもの?』
『まぁそんなところね』
シリカの確認に、肉を切り分けながらエンドがうなずいた。
『なんで帝国に反発するんだ?』
とゼムがたずねる。
『帝国では貧富の差が激しくてね。一般階級の庶民は奴隷扱い。その辺かえたいのよ』
ナプキンで口元をぬぐってから、エンドが切り出した。
『まず、アニドキについて知ってもらおうか』
ニックがひひっと笑う。
『ゼムってばアニドキのくせに、全く能力使えてなかったもんな』
くっと悔しがるゼム。
冷静な顔で、エンドがニックを見下ろした。
『だけどな、ニック。実はおまえも、完璧には使いこなせていない』
『え?』
と驚くニック。
『なんだよニック』
と少し元気になるゼム。
睨み合う二人をエンドが注意しようと口を開いた瞬間、シリカに頭をぽかぽかっ!と殴られ頭を抱える二人。
ふっと笑い、
『いいお目付け役ができたな』
とほくそ笑むエンドに、
『な、冗談じゃねぇ!』
ゼムが言い、
『な、冗談じゃない!』
ニックも同時に言った。
『ふふっ、仲良くてよろしい』
といい2人を満面の笑みで見るシリカに、
『ぐぐっ』
と2人は言葉に詰まる。
先に我に返ったゼムが、エンドに問いかけた。
『でも、認めたくないけどニックは強かった。完璧じゃないって?』
ニックもうんうんと頷いて、エンドを見る。
『その前に、アニドキについて説明する必要があるな』
エンドが説明を始めた。
いわく――

アニドキとは動物の一部の能力、または容姿を持って生まれたもの。一般的にはそう定義されている。しかし、個人に差はあれど、さらなる能力を引き出す可能性を秘めていることを知られていない。そしてニックはその能力の半分以上を引き出している。そのため、普通の人やアニドキでは相手にならない力を持つ。ゼムも解放できれば、更に強くなれるだろう。

『ニックにはすでに説明してあったからいいとして……』
エンドがシリカとゼムを見る。
『ここまで理解できたかな』
シリカは頷く。
一方、ゼムは頭を抱えながら答える。
『つ……つまり、アニドキの力を引き出せば強くなれる?』
『そうだ。そしてニックがまだアニドキの力を使いこなせていない。というのは……』
アジトに来てから新しい情報を聞きすぎて、ゼムの頭がパンクしそうなのを見極めて言葉を選ぶエンド。
『……というのは?』
エンドがそんなことを考えてるとは思ってないニックが、わくわくしながら続きを急かす。
エンドはふぅーと息を吐いた。
『おまえが私の足元にも及ばないのがその証拠だ』
どうやら破裂寸前の頭でも理解できたらしく、笑いだすゼム。
少し不服そうに、
『そりゃ勝ったことなんてないけど……足元にも及ばないって』
ぷいっと拗ねて部屋から去ろうとするニック。
そのニックにも聞こえるよう声を張りエンドが言った。
『明日おまえらをしごいてやろう』
いい終わるか終わらないうちに部屋を後にするニック。
『ニック大丈夫かな? 明日来るといいけど』
心配するシリカに、
『ニックは来るよ』
自信満々に言うゼム。ほぅ、とエンドが感心したような声を出す。
『なんでわかるのよ?』
シリカが聞いた。
『男はみんな強くなりたいんだ』
ゼムが胸を張って答えた。
エンドが爆笑。
ぽかんとするシリカ。
涙目で笑いを堪えながら、エンドが言う。
『ふっ……まぁっ……大丈夫だ。ニックは。必ず来るよ。ふはっ』
自分達より付き合いの長いエンドの言葉に、シリカは説得力を感じた。



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