// 0. Brand-New_Masterpiece_And_Twins



「できた!」

 セリウムは満面の笑みを浮かべた。
 最終検査を終えた自信作が、作業机からはみ出すように、どん、と鎮座している。
 重厚感たっぷりの金属塊。あらゆる機器で軽量化・薄型化が飽和したと言われている今日日、滅多にお目にかかれないサイズのアイテムだ。もちろん既にこれだって、考えられる限りの軽量化を施してある。それでもこの大きさ。この重さ。並大抵の人間では使うことはおろか、素手で持ち上げることもできないだろう。
 現にこれを作った張本人も、こうして完璧に組み立ててしまった後は全く持ち上げられないのだし。

 作ってみたけど、使えるか分からない。
 完成したけど、実用に至るかまではまだ分からない。
 欲張って、これまでにない高機能を惜しげもなく搭載した。その弊害で、使用者の条件はかなり限定される。重すぎて持ち上がらない、というのはあくまでその一つでしかない。
 だから、使いこなせる人間がこの世にいるのかどうか、まだ分からない。

 まぁ、こんなことはよくあること、なんだけれど。

 うん、と一つ満足そうに頷いて、セリウムは最新鋭の作業机からぴょいと離れる。
 軽快な足音を鳴らして廊下を駆ける。
「コバルトー、できたよー」
 上機嫌のままで目当ての部屋を覗くと、
「聞こえてる」
 呼びかけとは正反対な、そっけない声が返ってくる。
 セリウムはそんな背中に駆け寄って、椅子の背もたれに手をかけた。
 今しがた完成した新作について、使用者の条件が変わらなかった旨を告げる。
「ごめん。あれは私の力量でも、もうどうにもならなかったよ」
「分かってる」
 良く似た顔立ちのもう一人が、既にそれを知っていたといわんばかりにすんなり頷く。
 その手元はせわしなく動いている。
 モニターには、最大機能まで呼び出した《RE:CODE(レコード)》が展開されている。
 おや、とセリウムは目を丸くした。
「もう検索かけてるんだ」
「一応」
 条件を入力して、検索開始。
 目の前のモニターがめまぐるしく変わり、人間には視認できない速度で情報を精査していく。
「にしても、もったいないなー、あれが使えたら絶対に突破できるのにー」
 セリウムがぼやく。
 黙々と機器を操作する片割れの頭頂部に、ぽすんとアゴを乗っける。
 そして、見た目に似合わない、大人びた苦笑いを浮かべた。
「ま、そーんな都合のいい人間、そうそういるわけな……」
 ありえないはずのビープ音。
 声は途切れた。
 データベース検索が、検索結果を表示して、停止した。
 双子は動きを止めた。
 黙って、顔を見合わせる。
 そして、揃って画面に向いた。
 二組の丸い瞳が、そこに表示されていた数字に、更に丸くなる。

―― 該当者 1名

 双子は、その数字をじいっと見て。
「……いたー!!!」
 お揃いの甲高い絶叫が、近隣にまで響き渡った。


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