10.



ゼムが気付いたときには、真下に砂漠の街(トセ)全体が広がっていた。
なにがなんだかわからない。よく見ると、街の中にフード姿の集団が小さく見えた 。
(……飛んでる?)
足にいつもの地面を踏みしめる感覚がない。身体をひねって背中を見ると、そこにはこうもりのような真っ黒な翼が生えていた。
『な、なんだこれ』
羽を意識した瞬間、グラッと天地が引っ繰り返る。
『お、落ち……うぁぁあああぁああああーーー!!!』
とっさに頭を腕で守り目を閉じた時、足が力強く引き上げられるのを感じた。
恐る恐る目を開けると、ゼムは再び街の上空にいた。
上を見ると、ゼムの翼とは違う大きな翼が見えた。逆光の中で悠然とはばたく、茶色い羽毛の翼。
ぶら下げられたままのゼムは、風を切って降下していく。地上2?3メートルまで下りたところで、足首を掴んでいた手がぱっと離れた。
『え、あっうわっ!!』
ほおり投げられたゼムは、麻袋の上にどさっと落ちた。袋の中から、小麦のような白い粉末が舞い上がる。
真っ白になったゼムは、どうにか起き上がりよつんばいで咳き込んだ。
『けほっ、ゴホッゴホ』
その前にすぅーっと着陸した人影は翼をたたみ、ゼムの様子を観察する。
『どうせ助けるなら、もうちょっと優しく降ろしてくれたって……』
恨めしそうに上を見上げ、ぶつぶつ言いながら顔を上げるゼム。そこに立っていたのは、フードを肩に落とした長身の女だった。長い茶髪を一本に束ね、短いズボンとショートブーツをはいている。
ゼムはその目の色を見て悟った。この人が、さっき割って入った背が高いフード姿だと。
『なんで助けた?』
警戒するゼムに、
『そんなに警戒するな。先程はこいつが失礼した。少し付き合ってほしくてな』
ハスキーでかっこいい声でそう言って、首を横にひねる。その背中から、ちっこいフードが現われる。フードの下にあったのは、白い毛の折れ耳ではなく、ところどころが跳ねている赤茶色の毛並みと、ぴんと立った耳だった。
『おまえは!!』
更に警戒するゼムの前で、小さいアニドキがバッと動く。ゼムが咄嗟に構える前で、土下座の姿勢をとった。
『ほんっとごめんよ〜このとおりだから許して? ね? ね?』
上目遣いで懇願するアニドキに、呆気にとられるゼム。その足に擦り寄る。
『お願いします! ……じゃないと今晩飯抜きなんだ』
この一言で、ゼムの警戒心が完全に解けた。余裕ができたゼムは、
『晩飯ね〜』
と、にやにやしたが、その言葉にあること思い出し、はっとする。
『しまった!』
突然青くなったゼムを、フードの二人が不思議そうに見る。




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