2.



 ゼムは家に着いても物思いにふけっていた。夕飯の良い匂いが流れてきて、ようやく顔をあげる。
『今日はご馳走だよ。私がつくったんだから』
 自信満々に言うシリカが、ゼムを夕食の席に呼んだ。
 エバイ魚の丸焼きと、七面鳥の丸焼き。テーブルに並べられた豪快な田舎料理からは、温かな湯気が立ち上っている。
 部屋の中に充満している香りを勢いよく吸い込んで、ゼムが顔をほころばせた。
『おーうまそう。今日はいつもより豪華だな。だからあんなに食い物買ってたのか』
『うん。今日はゼムの誕生日でしょ』
 シリカの言葉に、ゼムはきょとんとした。
『あぁ! そういえば!』
 ゼムは驚く。食卓の椅子を引きながら、しみじみと言った。
『そか……あれから5年か。あの時俺を拾ってくれたおじさんとおばさんに感謝する日でもあるな』
『そうだね』
『腹減った。食っていい?』
 ゼムの正直な言葉に、シリカは笑ってうなずいた。
『どうぞ』
 頂きます、とゼムが両手を合わせる。器に飛びつくようにかきこみ、満面の笑みで顔を上げた。
『うまい! けど、おばさんには勝てないな』
 その無遠慮な物言いに、シリカは拗ねてそっぽを向いた。
『じゃ、お母さんに作ってもらったらよかったね』
『冗談だよ。ありがとう』
 ゼムが焦ったように付け足して、また勢いよく料理を食べだす。それを見たシリカの顔に笑みが戻った。


 しばらくして、ゼムが突然フォークを置いた。料理はまだ半分ほど残っている。どうしたの、と不思議そうに問いかけるシリカを正面から見つめて、ゼムは意を決したように言った。
『俺、旅にでる』
 突然のゼムの言葉に驚いて、シリカは目を見開いた。
『なんで?』
 困惑するシリカを見て、ゼムは静かに話し始める。
『今日いた連中……村の人じゃないよな。この辺りではみたことないやつらだった。特に、真ん中にいた小さい奴。はんぱなく強かった』
 ゼムの悔しげな声に、シリカは目の前の食器を見つめながら、小さく頷く。
『うん。この辺りじゃ、ゼムより強い人なんていないのに』
 真剣な顔でゼムが言った。
『外の世界は広い。俺は、もっと強い奴と戦って、強くなりたい。それで、大好きなこの村を守りたいんだ』
『ゼムも男の子だもんね。じゃ、私もついて行く!』
 嬉しそうに言うシリカに、駄目だ、とゼムは首を振った。
『危険だ。強くなって帰ってくる。そしたら連れてってやるよ』
『その前に負けちゃうんじゃないの? 強くなるにはいっぱい怪我するでしょ? ご飯は? ……は? ……は?』
 いっぱい言われて混乱したゼムは、なんだかんだ言い包められて、しまいには頭を抱えて叫んだ。
『あ――わかったよ! いいよ一緒に行くぞ!!』
『やった』
そして翌日、二人は住みなれた村、ドハロを発つことにした。


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