6.



 しばらく進んだ先には、大きな地下洞があった。割れた酒瓶や空の木箱がそこらじゅうに捨てられている。
『誰かいるよ』
 奥に人の気配が感じとって、シリカが小さく言った。ゼムがうなずく。
 足音を立てずに慎重に進むと、四、五人の男が輪になって焚き火を囲み、陽気に酒を飲んでいるのが見えた。
『あいつらか?』
 ゼムが空箱の裏に身を潜めて、マイゴへ尋ねた。
 マイゴは目を凝らして男たちの顔を見て、
『そう! あいつら……!』
相手が分かるなり急にいきり立って大声を出した。シリカが慌ててマイゴの口を押さえるも、
『誰だ?!』
酒を飲んでいた盗賊たちの一人が立ち上がる。
『気づかれた。こうなったら!』
マイゴが木箱の影から飛び出してゆく。
『シリカは隠れてろ』
ゼムはそう言い残し、マイゴのあとを追った。
『なんだぁ? おまえらは?』
 盗賊が千鳥足で近づいてきた。突然現れた二人をじろじろと眺め回して、
『子どもに……お前はさっきの。まさか盗んだものを返せ……なんて言いに来たわけじゃねぇよな??』
アルコールの臭いをまき散らしながら笑った。
『そうだ……って言ったら?』
 戦わなければマイゴの荷物は取り戻せないと悟ったゼムは、さりげなく右手で剣の柄を掴みつつ、挑発的な顔で答えた。
『ほほ〜』
 赤ら顔の男は、そう言うなり腰に下げていた剣を構え、ゼムに切りかかってきた。反射的に避けようとしたゼムは、背後のマイゴを思い出し、咄嗟に鞘に入ったままの剣で攻撃を受けた。不安定な体勢でいなしたためあっけなくバランスを崩す。
(しまった)
 慌てて顔を上げるが、酔った相手はフラついており追撃は来ない。その一瞬の隙をつき、ゼムが鞘つきの剣を振りかぶる。ゼムの攻撃に、相手は吹っ飛んで壁際に倒れ落ちた。
『子どもだと思ってたが、やるじゃねぇか』
 一番奥で酒を飲んでいた男が、にやつきながら言った。他の三人とは明らかに違う雰囲気に圧倒されて、ゼムは思わず生唾を飲み込んだ。男が手に持った瓶を振って小さく合図をする。すぐさま、横に控えていた男二人がゼムに襲いかかってきた。
 ゼムは剣を構え、冷静に二人の敵を見る。先程の男とは違い、酔ってフラついてはいない、が、
(あの犬に比べれば、こんなのザコだ)
 ゼムは彼らの攻撃をなんなくいなして、軽く余裕の笑みを浮かべた。
 慌てた二人のうち一人が、マイゴの背後に回り込みその首に剣を突きつけた。
『くっ』
 もう片方からの攻撃に対応していたゼムは、身動きがとれなくなる。武器を下げて悔しげに呻いた。マイゴの後ろで男が得意気に笑う。
『子どもだからって油断したが、こうなれば俺たちの勝ちだな』
『卑怯だ!』
『もともと盗賊に卑怯も何もないわw』
 高らかに笑う男の背後から、隠れていたシリカがひょっこりと顔を出す。その手にはごつごつした石が握られている。驚きに硬直しているゼムの前で、シリカは思いっきり男の頭を殴った。不意打ちの攻撃に男は間抜けな声をあげて失神した。シリカはマイゴを引っ張り、元の隠れ場所に二人で逃げ込んだ。
『さんきゅーシリカ!』
 人質さえいなければ実力差は歴然。ゼムは対峙していた相手を難なく倒した。
 そして最後に残った男に目を向ける。男は動揺する様子も見せず、まだ酒を飲んでいた。
『子ども相手に情けないな』
 男は倒れている部下を冷たい目で見下ろした。しかしその声には、遊び道具をみつけたときのような嬉しさが混じっている。男はのんびりと立ち上がり、好戦的な視線をゼムに向けた。
『俺の名はエンシン。おまえ、名はなんという?』
『ゼム。盗んだものを返すならいまのうちだぞ』
『はっ。その気があるならこんなことしてねえよ』
 目が合った次の瞬間、

――二人の剣が交わる。

抜き払った鞘が、ゼムの背後に音を立てて落ちた。それを見て、剣を押し付けあったまま、男が口角を上げる。
『ほぅ。やっと剣を抜く気になったか』


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