// 3. My_Dream,_Their_Wish--Supposed_To_Be_A_Hero



「イアンさん、」
 セリウムが真剣な顔をして、窓の外を指差した。
 小さな指の先に広がるのは、雲ひとつない青い空。
「雨がなぜ降るか、知ってる?」
 イアンもつられて外の景色を見る。
「なぜ降るかって……政府が降らしてるんだろ?」
「正解。じゃあ、どんな効果があるでしょう?」
「えー、なんだっけな……世界平和がどうのこうの、ってむかーし習ったような……」
 セリウムがくすくすと笑う。その隣で、コバルトが憮然とした顔で茶をすする。
「まぁ、そんなもんだよな。既に解決した問題は、世間から意識されなくなる。どんな不便があったかなんて、どんどん忘れられていく。そうやって開発が進んで、ここまで発展してきたんだ」
「そうだね」
 セリウムが寂しそうに同意した。
「――雨の効果は6つ」
「廃棄物処理」
「開発促進」
 双子が交互に指折り数える。
「ステルス技術の無効化」
「放射能の無効化」
「軍事利用区域にある周波数の妨害。それから、」
 一度区切って、息を吸って、
「ミュリアナ病」
二人揃ってはっきりと、憎らしげに言った。

「ミュリアナ病、って……」
 最近世間を騒がせている難病。いくらイアンでも名前くらいは知っている。
 はたとイアンが気づく。
「ちょっと待て。雨が原因っていうのは、単なる噂だって聞いたぞ」
「それは政府の言い分」
 すかさずコバルトが切り返す。
「政府は自分が降らせている雨の効用ばかり謳ってる。病気との因果関係を実証するものが何もないからって、噂を噂と言って見向きもしない」
「ほうほう。……で、つまり?」
「つまり、僕たちは『雨は危険だから止めろ』って政府に言うために、反政府軍(レジスタンツ)に所属してる」
 もちろんCoCeCとしては内密にね、とセリウムが人差し指を口の前に立てた。
 コバルトが一枚の端末を取り出す。手渡されたディスプレイに映っているのは、4人。ずいぶん幼い双子と、年若い男女。
 コバルトが目を伏せて、けれどはっきりと言った。震える声に強い感情を込めて。
「男のほうが僕たちの親。女のほうが、男の患者で、惚れた女で……この雨の開発者」
「二人とも、もう亡くなってるの。だから、私たちが雨を止めなくちゃいけない。――お願い、イアンさん」
 セリウムが懸命な表情で訴えた。
「私たちと一緒に戦ってほしいの。政府と戦って、雨を止めて欲しいの!」
 どこのヒーローショーのセリフだよ、とコバルトがついた悪態は流されて。
「おう、いいぞ!」
 イアンはすがすがしいほどに快諾した。
 まさかの返答に、双子がぽかんと口を開ける。
「……いや、あんた、もうちょっとなんかさあ」
 額を押さえながらコバルトがうめいた。
 けろりとイアンが答える。
「だってヒーローだろ。かっこいいじゃん。俺の夢だし」
「……いつのだよ」
「え?」
「わかったもうそれ以上言うな!!」
 耳を押さえてコバルトが叫んだ。
 入れ違うようにセリウムがイアンにとびつく。
「ありがとう、イアンさん! じゃあ早速、あの武器を軽々と扱えるようになるまで鍛えようね!」
「おう! …………え? おい、待った待った!!」
 バンザイしながら部屋を出て行くセリウムを、慌ててイアンが追っかける。
 二人を見送って、コバルトがまた大きなため息をついた。



 |  | 

SFトップに戻る  WMトップに戻る