// 6. A_Guy_With_A_Gun



 イアンは真っ白い通路を全速力で駆け抜けている。
 全身を覆うのは真っ黒な伸縮素材。一見すると良くある強化服(ARM)のようだが、これはセリウムお手製の防護服。電子制御による強化機能は一切ない。だからイアンにも扱える。更に、あらゆる強化服が引っかかるはずの防犯探知機にも反応しない。
 だから、イアンはあっさりと《中央研究所(ラボ)》に進入を果たすことができた。世界最高機密を扱う最高レベルのセキュリティシステムが張り巡らされているはずの施設に、単身、難なく。
 落ち着きなく周囲を見回しながら走るが、侵入してからこれきり、誰にも出会っていない。
「なぁセリウム、これって犯罪じゃねぇの? 勝手に入っちゃったぞ!」
『大丈夫。先にコバルトが入ってるって言ったでしょ。私たちにとっては庭みたいなものだよ』
 のんきな声がインカムから聞こえてくる。
「そうか」
 イアンはあっさりと納得した。
『三つ目の角を右ね』
「おう!」
 指示に沿って右折したイアンの視界に広がるのは、またも同じような白い通路。
「それにしても広いなー! グラウンド以外でこんなにまっすぐ走ったの初めてだ!」
くすくすとセリウムが笑う声がする。
『楽しそうでなにより』
「おう。あとは、これがなかったら最高なんだけどな」
 そう言って、イアンは肩にかついでいるバカでかい銃砲を見上げる。
「なあなぁ、コレ、いつになったら下ろしていいんだっけー?」
『もうちょっと頑張って。八個目の角を右に曲がって、階段を登って、3って書かれてる扉を開けて、スロープを下りたら撃っていいから。……うーん、でも、今いるところからでも、威力としては余裕で届くかなぁ』
「なら、もういいじゃん!」
『施設内は方位撹乱技術が作動してて、正確な射撃方角が分かんないから無理。――そろそろ八つ目の角、曲がった?』
「おう、ここかな」
『じゃあ階段を登って』
 イアンは、目の前に広がる光景に、まばたき。
「ねぇけど!!」
『……え?』
 セリウムの声が固まった。
 イアンはひたすらにまっすぐ伸びている通路を駆け抜ける。
「階段なんて見当たらないぜ?」
『えええ! そんなはずないよ、ちゃんと探して!』
「ってもなー……」
 イアンは立ち止まって首をひねる。
 ぽつりと言った。
「んー……どっかで数え間違ったか?」
 インカムの向こうで、セリウムがなにやらきゃんきゃん叫んでいた。


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